ファーム暮らしに向いている⼈・向いていない⼈
前回はファームの探し⽅を説明してきましたが、
「そもそも⾁体労働をしたことがない、⾃分にファーム・ジョブができるのか不安……」
という⼈も多いでしょう。
結論から⾔うと、どのファームでもやっていける⼈・どのファームでもやっていけない⼈というのは、いないのではないかと思います。
「⾃分に合うファームが⾒つかるかどうか」
次第、といえます。
しかし、他の⼈たちを⾒ていると、なんとなーく、
「この⼈にファーム・ジョブは厳しいだろうなあ」
とか、
反対に
「この⼈は仕事が少ないファームだともったいないなあ、別の稼げるファームに移ればいいのに」
とか、ちょっと上から⽬線で思ってしまうことも。
その差というのは、体⼒というより、ファーム・ジョブとそれをとりまく環境への適応⼒なのだと思います。
「ファームに向いている⼈」を「ファーム⽣活を楽しめる⼈」と定義すると、おそらく私はファームに向いている。
事実、「稼ぎにきたの? それともビザのカウントのため?」とたびたびきかれる機会がありましたが、「お⾦もビザカウントも重要だけど、それ以上に⽥舎暮らしを楽しみたくてきた」
と私は答えていました。
そして⾃分や他のワーカーを⾒て、ファーム・ジョブを続けられる⼈の傾向を考えてみると、
以下のような要素があると思います。
- ある程度おおざっぱでおおらか(他⼈との共同⽣活に慣れている)
- こだわりが少ない(⽥舎だと⽬当てのものが⼿に⼊らない可能性が⾼い)
- 趣味が多い(娯楽が少ない⽥舎でも楽しめる)
- ポジティブ(じゃないとやってらんない)
- ⽬的がある(ダイエットしたい、旅のために稼ぎたい、ビザがとれればよいなど)
たとえば、「宿が汚すぎて嫌だ。つらい」と、⽇本⼈のルームメイトが⾔っていたことがあります。
私からみてその部屋は、ポテチの袋や化粧品が散乱しており、決してキレイとは⾔えないものの、ファームのアコモデーションとしてはけっこう広くて居⼼地いいんじゃない、と思っていました。
ゲストハウスやユースホステル慣れしている私は彼⼥に⽐べ、宿に対するストレスは少なかったようです。
また、趣味が少ないと「休みだけどやりたいことが特にない」ということにもなりがちです。
今はインターネットで映画を⾒るなど、ネット環境がととのっていればある程度時間をつぶせる時代ですが、ファームによっては WiFi はおろか、電波さえも通じません。
私がこれまで経験した4つのファームでも、WiFiがさくさくと通じるところもあれば、全く通じないところもありました。
その点電波事情に左右されない趣味を持つ⼈は、⽥舎をより簡単に楽しめます。
料理が好きな⼈は、デイオフなどで時間があるとき⼿間がかかる料理を作っていましたし、散歩と読書が趣味の私は、仕事が終わると毎⽇近くの川にピクニックしに⾏ったりしていました。
釣りやアウトドア系の趣味がある⼈は、その地域ならではの体験ができそうです。
性格的には、不便さを苦に感じない程度には、ポジティブでいる必要があります。
私⾃⾝はどちらかといえばネガティブな性格ですが、ファーム⽣活をビザ取得のための労働ではなく、普通の旅⾏ではできない⽥舎体験のつもりで、最⼤限楽しんでやろうと考えていました。
ですので、⼤⼿の⼤型スーパーが近くになくても、WiFiが通じなくても、⼤きなストレスにはなりませんでした。
都会のほうが好きだという⼈でも、⽬的を持つかどうかで⽣活の質は変わります。
オレンジをもぎながらスクワットをし、ダイエットをするのだと豪語していたルームメイトは、「はやくメルボルンに戻りたい」と⾔いつつも、⽇々の労働を楽しんでいるように⾒えました。
また、「世界⼀周するために3か⽉でいくら貯める、そのためにがんばる」などと割り切って過ごす⼈もいます。
⽬的がはっきりしていると、多少の不便さははじきとばして、その先を⾒据えて働くことができるようです。
ダイエットでも⽥舎体験でも貯⾦でも何でもいいので、別の⽬的や楽しみを⾃分なりに探してみることをおすすめします。
何もかも完璧に⽤意されているファームはありません。
たいてい、宿はキレイだけど仕事が少なくて稼げないとか、稼げるけど近くにスーパーがなくて不便とか、さらには⼈間関係も含めると、何かしら問題があります。
ここだけは絶対にゆずれない、というところ以外はゆずる。
我慢できないのなら早めに別のファームに⾏く。
スーパーへのアクセスの良さや、きれいなシェアハウスを売りにしているところもあるので、もしそうした点が⾃分にとって⼤事だと感じたら、そのようなファームを選ぶのも1つの⼿だと思います。
ファームで稼げる⼈・稼げない⼈
ファーム・ジョブの内容は、⼀般に想像されるような収穫のほか、収穫された野菜のピッキング、苗植え、葉や芽をとる栽培の仕事など、さまざまです。
そしてファーム・ジョブには、時給の仕事と歩合の仕事があります。
通常、時給の仕事は歩合よりも厳しい分、稼げます。
歩合の場合、仕事をさぼれば損をするのはワーカー⾃⾝。
しかし時給の場合、⼀定程度の仕事をこなせないワーカーを雇うと、ファームにとって損になります。
当然ファーム側の⽬も厳しくなるわけで、クビになることもあります(他のワーカーより収穫量が極端に少ないなど)。
私はこれまで何のスポーツもやってこなかった、30歳の⼥。
年齢・性別・筋⼒すべてにおいて⾃信がなく、「⾃分に⾁体労働ができるんだろうか。すぐクビになるんじゃないか」と思っていました。
そんな背⽔の陣でファームに臨んだわけですが、歩合の仕事も時給の仕事も、結果としてなんとかなっている。
もちろん、トップピッカーと呼ばれるような、桁違いに稼げるような若くて運動神経のいい⼦はいましたし、その⼦たちとはとうてい張り合えません。
しかしふたを開けてみると、私より稼げない若い男が、けっこういたのも事実です。
周りのワーカーを⾒ていて気づいたのは、⾝⻑や筋⼒の⾯で⼥性は不利ですが、ある程度までは集中⼒で補えるということ。
たとえば⽊になっている作物を収穫するとき、⾝⻑が低くてどうしても⽊の上の⽅まで⼿が届かない、ということはあります。
しかし私が⾒た限り、⾝⻑と収穫量は必ずしも⽐例していなかった。
集中を⽋いているワーカーは、⾝⻑の低いワーカーよりも収穫量が少なかったのです。
また年齢に関しては、私がいたオレンジファームでは、男⼥ともにアラサーのワーカーは皆平均以上にオレンジをとりまくっており、⾃分の⾝体の状況や、どこまで無理がきくかを知っているという点で、20歳前後のワーカーよりうまくやっていたようにみえます。
年齢・体⼒・性別は、確かに⼀定程度影響します。
しかしそれ以上に、その作業の向き不向きの個⼈差や、どこまで必死にやるかという気合いの問題のほうが、はるかに⼤きいのだと思います。
慣れてくると作業のスピードも上がってくるので、始めは他の⼈より稼げなくても、1か⽉、2か⽉後にはいつのまにか稼ぎ頭になっている!ということもあります。
当たり前のようですが、まっとうなファームで頑張って働けば、暮らしていけるだけの⾦額は稼げます。
もしその作業がどうしても苦⼿だったり、⾃分がそこで稼げない、合わないと感じたら、別のファームに移ればいい。
体⼒勝負でない作物を選んだり、男⼥で異なる仕事(男性が収穫、⼥性がパッキングなど)を設定しているファームを選んだりするという⼿もあります。
ファームにいれば他のファームの情報も得やすくなるので、とりあえずどこかのファームに⾏ってみて、他のワーカーから情報収集するのもいいと思います。
ファームならではの楽しみ
ファームでしか味わえない楽しみは、多々あります。
……というより、その楽しさがやめられなくて、私はビザ取得要件の3か⽉を超えたあとも、場所を変えてファーム・ジョブを続けていました。
まず、観光では⾏かないような⽥舎を⾒て回れること。
東京から⽐べるとメルボルンはのんびりした都市ですが、それでも都市は都市。
ファームジョブをするために⽥舎に移ると、⼈⼝が少なくのんびりした町の雰囲気に、少しほっとしました。
⽬⽴った観光施設はなくても、地元の歴史を紹介する博物館に⾏ったり、近場のワイナリーめぐりをしていると、オーストラリアがどのように発展してきたのかや、移⺠の出⾝地の多様性に触れることもできます。
「この町はドイツ⼈移⺠が多いんだな。それはなぜだろう」
「この町の名前は、初期の⼊植者が乗っていた船の名前なんだな」
そんな⼩さな発⾒の積み重ねは、⽥舎暮らしの特権。
⾃分が今いる場所がどんなところかわかれば、そこで働くのもより楽しくなると思います。
ハチミツや野菜などを扱うローカル・マーケットが開催されていれば、その⼟地の特産品を買う楽しみもあります。
ファームで栽培している作物を持ち帰れるというのも、ファーム・ジョブのありがたいところ(市場に出荷できない B級品の作物など)。
複数の野菜を扱う野菜ファームでは、⽶やパンなどの基本⾷品以外、私はほとんど⾷費を使わずにすみました。
また、オレンジファーム、イチゴファームでは、ジャム作りを⼤いに楽しみました。
作り⽅は簡単。
果物を切って鍋に⼊れ、少しだけ⽔を加え、ひたすら煮詰め、ある程度ジャムらしいかたまりになってきたら砂糖を⼊れて好みの⽢さにし、さらに煮詰める。
時間はかかりますが、砂糖や添加物がたくさん⼊った市販のジャムなんて、もう⾷べられないと思うほどうまい。
好きなだけ作物を持ち帰れる、ファームならではの贅沢です。
友達ができるということも、⼤きい。
もちろん気が合わないルームメイトと過ごすのはストレスですが、私の場合はどのファームでも、⼈に恵まれて過ごせました。
オレンジファームでは、⽇本⼈・韓国⼈のルームメイトたちと賞味期限切れのポテチ(割引きされているのを箱買い)を交換しあって⾷べたり、きわどい韓国語や⽇本語を教えあったりするのが、本当に楽しかった。
野菜ファームやトマトファームでは、気の合うワーカーと休みの⽇に崖の上を散歩したり、フィッシュ・アンド・チップスを買ってピクニックしたり、夜、星を⾒ながらビールを飲んだりしました。
1週間で辞めたイチゴファームも、給与が募集時の提⽰よりはるかに低かったためやむなくすぐに出ましたが、韓国⼈の同僚たちはみな親切で、本格的な韓国料理を分けてもらったり、お礼にカレーを作ったりして、思い出深い時間が過ごせました。
どのファームも「⾏ってよかった」と、⼼底思っています。
(ライター:NAO)